ヒョウゴはひたすら歩いている
岬兵庫助(みさき ひょうごのすけ)は、「竹谷温泉」から自動車道を「鬼塚」駐車場に向かって歩いていた。竹谷温泉は登山道の出入り口であり、可能性として末の弟・サクラが、帰り道として歩いたかもしれない道だ。日曜日の今日、すぐ下の弟・イオリは山岳捜索隊と山に入っている。自分も、と思ったが、もともと運動らしき運動をしてきていないヒョウゴは、母・明純に固く止められた。しかし、ただ待っているなんて出来るはずがない。せめて、その自動車道から滑落した可能性がないか、歩いて約三時間の道を、ヒョウゴはひたすら歩いていた。
「いいかな、明日、杜都市に行っても」
妻・瑠布乃は黙ってうなずいた。
「ごめん。明日、結婚記念日のために休みを取っていたのに」
さらに瑠布乃は首を振る。
「蒼輔や霞音には、俺から話してから行くよ」
長男の蒼輔はこの春中学校一年。霞音は小学校一年とダブル入学だった。また蒼輔は小学校三年生から実家の杜都市に一人で泊まりに行っており、その時弟・サクラは必ず休みを取って遊んでくれたので、蒼輔にとっては大好きな叔父さんだった。