置き去りにするという事

敢えて辛い状況にいる相手を置き去りにする時、私は無駄な優しさで貴方を傷つけたくないからといいわけをした。それは相手のためを想ってのことではなく、私自身がその後全てを背負える自信がないから逃げているだけなのである。

私からするとそれは優しさでも何でもないことだとわかっていた。しかしわかっているからといって手を差し伸べる勇気があるかといえば、もちろん無いから置き去りにするのだ。

時に、私は自分は卑怯者だと感じる。遠くから見守っているというのは、卑怯者だと思う。何故なら逆の立場で考えるとよくわかる。

私が窮地に立たされている時には放っておいたくせに、ほとぼりが冷めてから近づいて来る。そして、あの時は俺の方が辛かったなどと言われても卑怯だと感じるからだ。しかし、私は今までそのセリフに何度も騙されて来ているのである。

「そうか、あの頃は貴方も辛かったのか……」

そう言って私はいつも、いつも相手が私を放っておいたことを許してきたのだ。そして、その度に、「私がもっと強くならなければな……」などと考えるのであった。

しかし私はそう簡単に強くなることもなければ、どんな経験を重ねても本質というものはあまり変わらないのであった。私の場合は自分が置き去りにされることに対しては鈍感で、自分が誰かを置き去りにするということに関してはとても敏感なのだろう。