第1部 インドにおける人材育成の考察
インドとの仕事の関わりは、新入社員時代から数えて約30年にも及びます。2008年にインドに着任してからは、企業経営の仕事の傍ら、インドという国への好奇心から世界遺産の全箇所踏破を2年間で成し遂げました。
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そうした経験から、インドの世界遺産については過去2回、インド日本商工会(JCCII)の全体総会の催しとして、大使館でお話ししたこともありました。以来13年、インドでは数社の財務取締役を務めて今日に至っています。
インドに関する書物は多種ありますが、その多くはインドの社会事情、観光情報に関するもので、それらでもってインドという国の全体を推し量ることには無理があります。「多様性の中の統一」を特性とするインドの実情が伝わらないのです。
であれば、インドの現役企業経営者のひとりとして、情報のステレオタイプと先入観にとらわれないインドの企業運営のポイントを日本の皆様にお伝えすべきであろう、そのように強く感じています。2020年6月現在のインドの課題は、経済の自立です。過去のいわば半鎖国の独自外交ではなく、いわゆる西側諸国からの資本移転や技術移転を積極的に行い、たとえば中国など特定の国に依存しない自立経済を培っていくべきでしょう。
新型コロナウイルス騒ぎの中、この6月には印豪の軍事提携の話もあり、2014年からのモディ政権は、過去にない迅速さで物事を変えようとしています。インド日本商工会の建議アドバイザーのひとりである私が感じる危機は、インドへの投資誘致の謳い文句が、いまだに30年前からステレオタイプ化された「大きい、ポテンシャル」という言葉のままである、ということです。
これを脱却し、「規制緩和」、「開かれた市場」へと謳い文句を変換しないかぎり、先進諸国の外資による関心は薄れるばかりではないか、そうした危機感を覚えずにはいられません。