別室では、退屈そうに涼子が椅子に座っていた。

背伸びをしふいに振り向くと、部屋の隅に全身がすっぽり入る奇妙な形をしたボディスーツが置いてあった。その横には赤いガスボンベと飛行機パイロットがつけるようなゴーグル。

このボディスーツは戦闘服? 消防服? いや、特殊な作業を行うときに着る作業着だろうか。背中のジッパーを開けて全身を入れることができるようだ。漆色の口にくわえる簡易酸素吸入装置らしきものもある。

これらは何?…涼子は想った。

全部、黒い鞄の中に入っていたようだ。

「見てしまったようだな。菊池一等兵」

拳銃を涼子の頬につけ、シマは顔を寄せる。

「…な、なんなんですか」

シマは銃を降ろし、覚悟したかのように。

「もういいだろ…これが、日本軍、最後の秘密兵器『特別強化戦闘服甲号』だ。試作品だがな。東京の軍令部の研究室でこしらえたものでわたしも見るのは今回が初めてだ」

シマはさらに続ける。

「この特殊なガスを、そのボディスーツの隙間に入れ、ゴーグルを被り酸素吸入装置を咥えた兵士がその中に入る。ピストルや機関銃の弾はこのボディスーツがクッションのような役目を果たして跳ね返す。兵士も手には機関銃や手榴弾、そして爆弾を持って動ける」

「これ、兵士だけではなく、訓練したら民間人…女、子供も使えますよね…」

「さすが、涼子だな。そう、一億総特攻兵器としても使える。敵の機関銃の弾は短時間ではあるがほぼ100%防げる。女でも子供でも戦闘員だ。爆弾を持って相手陣営の懐に入ってドカーンというやつさ。これから量産化して…本土決戦に…」

「シマさんが作ったのですか?」

涼子が訊く。

「基本設計はな…」

「悪魔の兵器ですね」

ポツリと涼子は呟く。

「初めは、空襲などの時の国民の防護用に創ったんだが…」

「この時代にしては大した科学力だ。それ、使えますよ」

2人が振り向くとTENCHIが4つのヒレを出して、隣の部屋に来ていた。

器用に匍匐(ほふく)前進のように動いている。

「何が使えるだ!」

シマはTENCHIを睨む。

「どうせ、私を修理した後、情報を聞き出して、また分解して軍事利用するんでしょ」

TENCHIはお見通しのようだ。

「先輩、やりましたね、修理は完了したんですか!」

涼子は小さく手を叩いた。