今までの「常識」では、これと逆のことが言われてきた。ほとんどの人は、バターよりマーガリン、ラードよりショートニングのほうが、健康にいいと信じているに違いない。それは、先ほど述べたような動物性脂肪に対する誤った認識が広まっていたからである。
本書の読者は、すでに動物性脂肪の優秀さを理解しているわけだから、バターやラードを避ける理由など何一つないことをよくおわかりのことだろう。マーガリンやショートニングが有害だという理由は、単にそれが酸化しやすい脂肪を使っているという点ばかりではない。これらの代用食品は、もっと重大な危険をはらんでいるのである。
マーガリンやショートニングの原料となる魚の脂肪や植物油は、常温では液体になっている。したがって、そのままではバターやラードの代用品にすることができない。そこで水素を添加(てんか)して融点を上げ、常温でも固まるようにしたのがマーガリンとショートニングである。
ここで問題になるのは、水素を添加したときに分子の立体形が変わってしまう点である。そこが、バターやラードとは本質的に異なる部分である。
かつてドイツで、クローン病と呼ばれる難病が多発して社会問題になったことがある。口から肛門にいたるまで、消化器官全体に潰瘍(かいよう)を起こすという恐ろしい病気である。しかも自己免疫(じこめんえき)を起こしてしまうから、きわめて治りにくい。少し快方に向かったと思っても、自分自身の免疫システムがそれを「悪い状態」と判断して、自分の体組織を攻撃しはじめるからである。
突然、こんな難病の話を持ち出したのは、その原因がマーガリンにあるとされたからである。クローン病が多発した時期は、ちょうどドイツでマーガリンが新しい食品として発売されはじめた時期と重なっていた。そこで、この代用バターの有害性が注目されるようになった。
では、マーガリンの何が有害なのか。それについて私は以前から、こんな仮説を持っていた。分子の立体形が変わったために、体内でプロスタグランディンを作れなくなることが、有害性を生む要因ではないかというものである。そして最近になって、イギリスの学者の論文に、私の仮説とほぼ同じことが書かれていた。
(三石巌著『医学常識はウソだらけ 分子生物学が明かす「生命の法則」』祥伝社黄金文庫)