夕食後、毎日ある「号令調整」では…

夕食後は、毎日、号令調整がある。百名が一列に並び、足を開いて立ち、夕闇に向かって全員力いっぱい大声で怒鳴る。砲兵の場合、歩兵と異なり、馬部隊であるため瞬時の動作が難しいことから、号令も「前へ……進めーーーーー」、「中隊……止まれーーーーー」と、ゆっくりとしたやや間延びしたものとなる。

射撃号令も、重い大砲を操作する砲手の動作に合わせるため、「照……準点、後……方……左金の鯱の頂上、方……向三千百、榴……弾、瞬発信管、装……薬四号、高……低百六、二……千六百、第一発射、続いて込め、各個に射て」と、行進の号令同様テンポののろいユーモラスなものとなる。

この号令も訓練として行う場合は、決して優雅なものではない。砲声に負けないようにと、あらん限りの声で怒鳴ることを強要されるため、ほとんどの者が喉をやられる。杉井も一度喉から出血し、声が枯れて出なくなった。河野中尉から腹から出さないから喉を痛めると言われ、徹底的に腹式呼吸を練習した結果、喉が回復した時には、これが自分の声かと思うほどに、澄んだよくとおる声が出せるようになった。