第2作『人形』
「ククククク。オモシロクナッテキタネ」
サムの声が聞こえた。
「ナニモ、シンパイスルコトハナイサ。ホンノイタズラサ。ソンナカオスルナヨ、オクビョウモノメ」
「そんなことないさ」
心の中でぼくはサムに言い返した。
「トキコハナマイキダ。イツモムカツイテルハズダ。ハラヲタテテイタハズダ。コノヘンデ、シカエシシチャエヨ」
「でもー」
しばらくして鴇子は泣きそうに声を上げた。
「でもじゃないだろ。あいつの想いは、深いんだ。夜、お前を思って大泣きしてるんだ」
「うそ」
「それにな、下敷きのケースにお前の水着の写真を入れてる」
鴇子の顔が曇った。
「どうして」
「あいつ、趣味がカメラだろ。ニコンの一眼レフと望遠を持っているんだよ。家に暗室も持ってるって言うし」
「何よそれ、盗撮じゃない」
「あのな、それほどの気持ちなんだよ。あいつの家に行くと、部屋にお前の写真がいっぱい貼ってあるし」
自分でも調子に乗りすぎていることが分かる。もっとも、太郎には好きな子を遠くから撮る勇気なんてないし、カメラも持っていない。
「気持ち悪い」と鴇子は呟いた。
ぼくは声を抑えて言った。
「あいつネクラだぞ。無視しててみろ、何するか分からないぞ」
「困るよ」
「な、頼むよ」と鴇子に手を合わせた。