助教、助手は候補生から聞かれれば何でも教える立場にあったが、射撃に関しては、彼らは習慣で技術を会得しているため、その原理の説明はできなかった。やむなく杉井は、またしても睡眠時間を一時間削っての便所の中での独学で、何とか他の者に追随していくことになった。
一方、通信手の訓練は手旗信号から始まる。アイウエオの四十八文字の発信と受信を営内で練習し、その後これを野外で行い、更には、遠隔地との送受信を眼鏡を通して訓練するのである。
これと並行してモールス信号も習得する。イはイトー(・─)、ロはロジョーホショー(・─・─)、ハはハーモニカ(─・・・)といった要領で、それぞれに単語をあてて暗唱し、それを手旗で行い、その後、電信音での受発信を覚える。
手旗、モールスの次は有線電話の訓練で、砲列と観測所の間、観測所と歩兵第一線との間に必要となる架線作業を練習する。電線を巻いた線巻四巻を入れた雑嚢を振り分けにして肩に背負い、更に電話機も肩にして、二千メートルを駆け足したり、匍匐前進したりしながら電話線を敷いていくのであるが、これは重労働というような単純な言葉で片づけられる代物ではなかった。