僕たちはお互いに気になる存在だった
「ここのお店、前から気になっていたんだ。ネットでも評価高いし。でも一緒に行ける人が早坂くらいしかいないから、今日はチャンスだと思って」
「寂しいな。しょうがないからつき合うよ」
僕は実家に帰省していたが、早坂はまだ病院近くのアパートに残っていた。だからこのお店が気になっていた僕と、このお店の近くに住んでいる早坂の両方にとって都合がいいと思いチョイスした。
「おれたちがまともに話すのって、最初に会った時以来だよな」
早坂が運ばれてきた肉を七輪に並べながら言う。
「そうだね。僕は昨日から夏休みなんだけど、全く予定がなくてどうしようかと途方に暮れていたんだ。メールをくれてほんとに良かったよ」
僕はまだ焼けていない肉を裏返したり並べ直したりしながら答えた。
「そうなの? 地元の友だちと会ったりしないのか?」
「会いたい気持ちもあるんだけど、なかなか都合が合わなくて」
実際には誰とも会いたくなくて、連絡も取っていない。物事がうまくいっていない時はそんなものだ。
「確かに周りもみんな忙しいもんな」
「早坂は夏休みどうするの?」
「おれは地元の友だちと会う予定もあるけど、メインのイベントは学生の頃からつき合っている彼女の両親に挨拶に行くことかな」
「そうなんだ。結婚するの?」
「うん。つき合って3年だし、そろそろ責任とらないとな」
早坂は肉を裏返しながら照れ隠しでそう答えた。
僕たちは社会人になってまだ3年目だが、もう年齢は20歳代後半で、結婚している同級生もちらほらいる。特に驚くようなことではなかった。