「山川は結婚の予定とかないの?」
「彼女もいないよ」
「そっか。モテそうなのに意外だな。欲しくないのか?」
「そんなことないよ。欲しいけど、今はそれどころじゃないって感じかな」
「それは仕事が大変ってこと?」
「そうだね。今は余裕がなくて仕事以外のことは考えられない」
「でも1人だと辛くない?」
「ああ、どうなんだろう」
(1人だと辛いのかな)それはあんまり考えたことがなかった。
外科の同期の東(あずま)さんとの関係はピリピリしているし、彼女もいない。僕には今相談できる相手がいない。しいていうなら神谷君かなと一瞬思ったけど、時々話し相手にはなってくれても、相談するという感じではない。
(誰かいたら相談するのかな。そうすれば少しは楽になるのかな)
「早坂は彼女に仕事の話とかするの?」
「結構するよ。週に1回くらい電話するんだけど、その時はだいたい仕事の愚痴だな。誰かに言わないとやってられないよ」
「そっか。それで、実際のところ仕事は順調なの?」
「なんとかやっているよ。先輩に怒られまくって泣きそうになりながらも、なんとか耐えている」
「そうなんだ」
(早坂も先輩に怒られるんだ)
自分だけが怒られているわけではないと分かって少し安心する。
「山川は順調なの?」
「正直、あまり順調とは言えないかな。僕も最近ひどく怒られたことがあって……」
僕は、荒木先生に怒られたこと、担当医の立場でどう振る舞えばいいのか悩んでいることを話した。
「え、そんなことがあったの。うちの科は主治医がほぼ1人で患者を診ることになっていて、おれも主治医で患者を持っているからそんなふうに悩むことはなかったな。外科は大変だな」