第2作『人形』
今日もひとりで、遠回りして家に帰った。すっかり暗くなった部屋に入ると、「彼」の気配を感じた。
空気が重くなっているのを感じた。そこは自分の部屋ではなく、どこか別の空間であるように感じた。
暗闇の中でぼくは体を硬くして、指一本動かせなかった。
「ソレデイイノカイ」
どこかで誰かが囁いた。ぼくは身震いをした。
「ソレデ、イイノカイ、ククククク」
その声は聞こえるのではなく、心に直接に語りかけるもののように感じられた。
「誰?」身をすくめ、心の中でぼくは問いかけた。
「ホントニキミハ、バカダヨナ…ククククク」
子どもの声だった。生意気な小学生のような声だ。それがあの「彼」であることはすぐに分かった。
ぼくは声を押し殺して訊いた。「君は誰なんだ」
「ソウ、サム、トデモシテオコウカ」
「サム?」
「キミハ、ホントニ、バカデオヒトヨシダ。イイノカナ、アンナヤクソクシチャッテサ」
「約束だなんて」
「エッ、タロウハ、モウ、ソノキニナッテルヨ、ドウスルノ」
「大丈夫さ」
「ホントウカイ」
「鴇子なんてぼくは関係ない。だいいち鴇子は太郎なんて相手にしないさ」
「ソレデイイノカイ、ククククク」
「何だよ、笑うなよ。何がそんなにおかしいんだ」
「イイノカナ、トキコヲ、トラレチャッテサ」
「だから、関係ないって」
「タロウナンカニサ、アンナダサイヤツ、チビデ、オバカデ、ウンザリシテンダロ」
サムの言う通りだった。
「メンドクサイヤツダト、オモッテルンダロ。キミハ、カレヲミクダシテイル。ミクダシテモイイソンザイダト、オモッテイル。ククククク」
「その通りさ」
「ソレニシテモ、コンナ、クラクテ、ムシアツイトコロカラ、ダシテクレヨ」