序章
それは柔らかで、少しだけ先が丸く尖っていた。
それを優しく触ると、彼は小さく息を吸って目を閉じる。そうされると彼は気持ちいいし、少しだけ興奮した。だから私だけが見つけて、そっと触る。吸ったり、丁寧に舐めたりする。誰にも見つけてほしくなかった。
耳の後ろの骨のあたり、リンパの流れが始まるところあたりにその触角は生えていた。
彼といるようになって、私は3度目のキスで気づいた。
唇から頰に、首から耳に私の唇を動かしていくと、それは、遠慮がちにそこにあった。
自分の違和感を、自分自身が忘れようとするかのように、皮膚よりほのかにピンク色をしたそれは、でも、確かにそこにあった。
「気持ち悪いでしょう?」
彼は、目を閉じたまま言った。
私はそっと、その先端を触ってみる。
「これ、なんですか?」
彼は、私の頬をゆっくりと撫でながら目を開けて私を見る。
「触角の、ようなものだと思う。いつからあるのか、僕にもわからないんだ。気づいたら、そこにあって、触るとカラダの中に、ジン、と、響くみたいな感覚があるんだ。小さな小さな振動が、そこからカラダの中を回る感じ」
私はその薄いピンク色の触角のようなものを、軽くつまんでみる。
彼は、あっ、と小さく声を出した。