第2作『人形』
非常用の暗い階段を上り、重いスチールの扉を開けると、夏の光があふれ出た。屋上はその照り返しが激しかった。
「あのな……お前、深田さんのことよく知ってたよな」
「鴇子のことか」
「うん」
「オレさあ……」
「何だよ」
太郎の言おうとしていることはすぐに分かる。いつも鴇子と話しているとき、話に割り込めずにいる太郎を何度も見ている。
「最近、寝られないんだよ」
「うん」
「あのな、オレ、深田さんのことが気になって、しょうがないんだ……どうしよう」
「ああ! お前、なんで赤くなってるんだよ。惚れちまったな?」
「う、うん」
「あいつ、変な奴だぜ……どこがいいんだあんなのの」
「だって、可愛いじゃないか」
「どこが! まあ、ぱっと見はそうかも知れないけど」
「眼がクリクリしていてさ、声もさ、何かビンビンきちゃってさ」
「うーん、まあ、恋とか何とかって、意識するような奴じゃないけどな」
鴇子と太郎に接点はない。鴇子は近所の幼馴染みだが、太郎とは母親を通じての付き合いにすぎない。
「告白……手伝ってくれないか」