その日から、ぼくの中で何かが変わった気がした。何をするのにも浮き足だっている。軽い躁的気分なのだろうか。頭の中には何ら根拠のない変な自信がみなぎっていた。そしてその気分を、ぼくはぼくの中で手なづけることができなかった。それは、心の奥底をくすぐる快感でもあるのだが、まだそれが何なのか分からなかった。

ぼくは一層、ひとりでいることを好むようになっていた。英二たちを冷ややかに見るようになった。彼らの行動を幼稚に感じたり、馬鹿騒ぎを嫌悪するようになっていた。

鴇子に対しても無視する態度をとっている。鴇子を抱きしめたあの夢以来、ぼくは彼女を跪かせたとさえ勝手に思っている。

ぼくはひとり図書室で過ごすようになっていた。校舎の最上階にあるこの部屋は、空調設備が整い、冷房も効いている。私立学校の理事長の意向もあるのか、かなり立派で蔵書も豊富だ。そのくせ利用する生徒は少なく、受験勉強や文学好きな生徒がちらほらとはいたが、ぼくはそいつらさえ疎ましく思う。ただぼくがここにいるのは、そいつらがぼくに話しかけることもなく、ぼくの存在さえ認めずにいてくれるからだった。

ぼくは北の窓際の、美術の大型本をぼんやりと見て過ごすことにしている。

窓から外を見下ろすと、激しい日射しの中、運動部の連中は懸命にグラウンドを駆けずり回っている。ぼくはスポーツが嫌いだ。スポーツをやっている連中を好きになれない。彼らはいつも爽やか、傲慢で、あけすけで、自信を持ち、運動が苦手な者を小馬鹿にしているようにぼくには思えた。

「おい……」

振り返ると、そこに太郎がいた。

「相談があるんだけど」

こいつは、ぼく以上に運動音痴だ。

「相談?」

「うん」

「何だ」

「ここじゃあ……屋上で」

「ああ」

太郎は深刻そうな表情をしていた。

こんな暑い日に、ましてや屋上なんかに出たくはない。しかし、太郎の態度には拒みがたいものがあった。これは幼い頃から幾度となく繰り返されたことだった。