“あれほど嫌いで、ろくでもないと思っていた剛史と金儲けをしている”
冷静に考えると当たり前の結果だと思えた。そして剛史を毛嫌いしていた賢一の事を思い出した。
“賢一は、警察官僚、そして俺は犯罪者……賢一は、こんな俺をどう思うだろうか?”
特に取りえの無かった賢一が、努力によってエリートに昇り詰めた。それもエリートの中でも超エリート、しかもそれは賢一自身が自分で切り開いた道だ。
“あいつの才能はそれ程でもなかった。小学校の時も、特別勉強が出来た訳ではない”
禅は分かっていた。賢一の努力は尋常でない努力だろう。それは幼い頃から賢一を一番近くで見ていた禅が一番分かっていた。
“それに比べて俺はどうだろう? あれほどの才能があったのに、周りからあれほど期待されていたのに……それなのに、今は転落人生……”
禅はそう思うと呟いた。
「これじゃあ、本当にアリとキリギリスだな……」
それを聞いた刑事が禅に聞いた。
「何か言ったか?」
「いや、何でもありません……」
禅はそう言うとまっすぐに前を見つめた。そして思った。
“アリとキリギリス、アリは努力して働き続け幸せになった。そしてキリギリスは遊んでいて終わった。しかし、俺はバスケットをやっている時、才能だけではなく人より努力もした。だからトップを取れた。キリギリスも遊んでいた訳ではない。これは天命だ。罪を償い、もう一度努力して今度はバスケットではない他の何かでトップになるんだ!”
そう自分に言い聞かせた。
「誰も悪くはない……誰も……全て自分が悪いんだ……」
そう呟いた禅を、捜査員が黙って見つめていた。