食事が喉を通らず、夜も眠れない日々が続いた…

「山川君は手術には一生懸命だけど、病棟業務をもっとしっかりやらないとね」

このようにアドバイスしてくる先輩もいた。僕は病棟業務を疎かにしたつもりはない。手術が好きで外科医の道を選んだが、術前術後の管理は手術以上に大切にしたいと思っている。

外科医の中には、手術がうまければいいという考えの人もいるが、僕はそうじゃない。でも結果的にそう思われても仕方がないことをしてしまった。

ただ、あの時の状況を振り返ると僕は八方塞がりだった。相談してもダメ、相談しなくてもダメ、自分の判断で何かをしてもダメ、自分で判断できなくてもダメ。何かに気づいても何もしないという選択肢しか残されていなかった。

もちろん自分を正当化するわけではない。ただあの時はそうすることしかできなかった。

(どうすればよかったのだろう……)

「こっちだ、こっち」
「……あ、はい」

手術中であることを忘れて考え事をしてしまう。

「もっとカメラを近づけて」
「執刀医が何をしたいのか考えないと」
「はい、すいません」

いろいろと指摘されながら腹腔鏡を操作するのは変わらない。そうやってアドバイスを受けながら少しずつ上手になっていく過程が辛くも楽しいはずだった。

それなのに、今は何を言われても脳に届かなかった。自分だけがこの世界から隔絶されたような感じがして、現実味がなかった。

「もう手を下ろしてもいいよ」
「すみません」

手を下ろすということは手術から外れるということだ。明らかに集中力を欠いていた僕は手術中にメンバーから外された。これは外科医にとって大失態だ。どれだけ下手でも一生懸命やれば怒られながらも最後まで助手に入れてもらえるものなのだ。

もちろんこんなことは今までに一度もなかった。それなのに僕は何とも思わなかった。