上京した当初は、未来に明るい希望を持っていたが…
「悠、もうお昼過ぎだよ。そろそろ起きたらどうなの?」
「……うん」
部屋の時計を見ると、すでに午後1時を回っていた。重たい体をなんとか起こして、洗面所に向かう。
「ご飯食べる?」
「うん」
母の声に小さく返事をしてから、顔を洗って寝癖を整えた。寝巻きのまま食卓に座り、昼ご飯が出てくるのを待つ。
「はい、どうぞ」
食卓に焼き魚と味噌汁と白米が並べられる。
「いただきます」
起きてすぐにこんなにちゃんとしたご飯を食べるのはいつぶりだろう。久々の朝食(昼食?)にお腹がびっくりしたのか、あまり箸は進まなかったが、時間をかけてゆっくりと完食した。
「どう? 東京での生活は」
「少しずつ慣れてきたって感じかな。家と病院の往復だけだからあんまり都会で生活している感じはしないけど」
「悠はどうせ時間があっても都会を楽しめないでしょう」
「そうかもね」
お盆が終わった頃、僕は夏休みをとって実家に帰省していた。東国(とうごく)病院では、医師は1週間の夏休みがもらえる制度になっており、ほかの先生と被らないように順番に休暇を取った。
普段は特別な用事がない限り有給休暇を取ることは難しい。土日もまるまる1日休めることはまずない。しかし、夏休みに関しては、ほかの医師に仕事を全て任せてしっかり休もうという雰囲気があった。