第2作『人形』

単なる冷やかしと思われているのだろうか。もともと主人は、こんな高校生など相手にしたくはないのだろう。ぼくは気おくれして、それ以上声が出なかった。

諦めて帰ろうとしたとき、主人がぼくに声を掛けた。

「あなたは、この前、鴇子さんと一緒に来た方ですね」
「はい」

ぼくは、喉から声を絞り出すように答えた。主人はまた、本に目を落とした。ぼくは骨董屋を後にした。

家に帰ったぼくは、自分の預金通帳を開いてみた。七万円ほどある。小学生の頃からこつこつと貯めてきたものだった。

初めてぼくはこの金に手をつけようとしている。友達から一緒にギターを買おうと誘われたときも、京都旅行に誘われたときも、ひたすら断り大事にしてきたものだ。どうしても「彼」が欲しかった。

ぼくは月曜日、腹痛と偽って学校を早退した。通帳と銀行印を鞄に大事に入れ、銀行に向かった。誰かに見られてはいないか、ぼくはどきどきしながら、銀行の前に自転車を停めた。

こんな時間に高校生が銀行に現れるなんて、周りの人たちはどんな眼で見るだろう。ぼくは、今から計画的な犯罪を実行するような気持ちだった。