京都
夕食はホテル地階のカフェテリアで取った。地階というのは忘れ去られたような空間で、エレベーターのドアが開くと同時に空気が変わり、目の前に現れたのは、十年以上も時が止まったままのようなみやげ物売り場だった。客はおろか従業員がいる気配もなく、天井に並んだ蛍光灯だけがいたずらに皓々(こうこう)と光を放っていた。
手前の回転スタンドには、「京都」や「古都」や「KYOTO」の文字がさまざまな書体で箔押しされた数十種類の絵葉書が並べられ、ショーケースに所狭しと陳列されているのは、清水(きよみず)焼や信楽焼のぐい呑みや夫婦茶碗、お椀や塗り箸などの工芸品、それに、プラスチックに鍍金(めつき)塗装をほどこした京都タワーや金閣寺などの置物のたぐいである。天井からは清水寺や舞妓のすがたを刺繡したペナントも吊るされている。
奥のガラス戸のなかに掛けられる着物は、西陣織のものだろうか。見るからに高級そうだが、その前で足を止める人など、ましてや買い求める人などいるのだろうか。
売り場の一角には、漬け物の真空パックや箱詰めの菓子も並べられているが、いったいいつからそこにあるものなのか見当もつかない。そんなみやげ物の数々が時間を埃のように堆積させているあいだを抜けた突きあたりに、目指すカフェテリアはあった。しかし、そのカフェテリアというのも、子どものころに祖母に連れられて出かけたデパートの食堂のような空間で、店内に客は見当たらない。