陽は高くあがっていて、夕食までには、だいぶ間がある。
「皇上がお見えになったら、すべては、皇上に合わせねばならぬ。昼間、話はきいたであろう」
「はい…」
「万歳爺(ワンスイイエ)の、曹端嬪(ツァオたんぴん)に対する入れ込みようは、大変なものだ。夜になるのが、待ちきれなかったのであろう。名誉なことだぞ」
「はあ…」「春吉(チュンジー)!」
叱責の声が飛んだ。
「なんだその生返事は。まだ、自覚がたりんぞ。とにかく、端嬪(たんぴん)にお知らせせねば。来いっ!」
駄熊太(ドゥオシュンタイ)師父は、いち早く翊よく坤こん宮きゅうへと姿を消した。老年とはいえ、こういうときの動作は、おどろくほど早い。
私たちも、衣服についた灰をはたき落として、あとを追った。
こんなに早く、皇上にお目見えする機会をもつことになろうとは。いや、待てよ。
息が、とまった。皇上が、翊坤宮(よくこんきゅう)に来たということは、いまから曹端嬪(ツァオたんぴんを)…。
なにをいまさら。いや、わかっていたのである。しかし、わかっていなかったのである。宮中に入り、皇妃九嬪に仕えるのが、どんなことであるかを、頭でしかわかっていなかったのである。
「何をしておる、急がんか!」
「は、はっ」