「はあ、はあ、東京の軍令部から預かってきました……この基地の責任者さんですよね……」その兵士は息も絶え絶えである。
「そうだが、それよりその傷は……」兵士はかまわず黒いアタッシュケースをシマに渡す。
「来る途中、戦闘機で撃たれ、ここに来れたのはわたしだけです。すぐに……戻らなければ、撃たれた仲間が心配です……」
シマは現在、日本には制空権・制海権がほとんどない事を知っていた。民間人の格好で来るならともかく、軍服の集団で来たら危険性はかなり高まる。よほど急を要することだったのか。
「一刻を争っていたので……ゴホッ、ゴホッ」兵士は口から血だまりを噴き出した。
「大丈夫か!」よろめく兵士をシマは胸で受け止めた。
「この秘密の鞄のことは、アメリカ軍はまだ分かっていないと思います。戦闘機に撃たれたのは偶然かと……これで勝てますよね……」兵士は一瞬ニコッと笑った。それを言い終わると、その兵士はぐったりと倒れこんだ。
「おい!おい!しっかりしろ!」兵士を激しく揺さぶるが、返事がない。そしてしっかり抱き締めシマはきっぱりと言った。
「ああ、勝てるとも……」兵士はそのときかすかに微笑んでいるように思えた。