違ってきた未来
「おまえ、将太を覚えているか?」
「もちろん覚えていますよ」
「あいつだって偉そうに横綱になるとか言っていたけどやっと幕下だぜ、どう考えたって横綱なんて無理なんだよ、もともと器じゃねえんだよ、お前もわかっただろ? 世の中そんなに甘くねえんだよ」
禅は、そう言って笑う剛史を見て思った。
“世の中にはいろんな人間がいる、しかし、こいつほど自分の事を分かっていない奴はいない。そのくせ、人の事を悪く言うからたちが悪い”
禅はそう思うと、急に気持ちが悪くなってきた。しかし、それが剛史のせいか酒のせいか? それともマリファナが効いたのか? よく分からなかった。
それから、剛史の自慢話が始まった。剛史の盛られた話は、そのほとんどが嘘だと分かるような武勇伝と自慢話だった。剛史は、その話の節々で、連れに同意を求めた。
「なあ、そうだろ? 俺が話を付けたんだよな」
「そうっスね、剛史さんのおかげっス」
それを聞いて剛史は、更に天狗になって話を続けた。その連れは十七、八歳か? どう見ても未成年のガキだった。剛史は、気分がいいのかガキに言った。
「お前、飲んでねえな、もっと飲めよ!」
「オイッス、頂きます!」
そう言うと、そのガキは調子に乗って酒を飲んだ。
「おいおい、今日は吐くんじゃねえぞ!」
「オイッス!」
禅は、あまりのレベルの低さに嫌気がさした。禅は話の途中、わざと聞いた。
「そう言えば、将太くんは幕下ですか? 横綱はともかく、幕下でもすごいですね」
それまで、笑っていた剛史の顔から笑顔が消えた。
「どこがすごいんだよ? 幕下だぜ、幕下!」
「いや、相撲の世界で幕下まで行くのは、相当大変らしいですよ」
「お前バカか? そんなもんトップを取らないと意味ねえんだよ!」
禅はイラっとした。