「人間の欲なんて、なかなか抑えきれないもんだ」
「どうすれば、いいでしょうか」
「地道にやることだ。伝票を整理して、金額、担当者、メーカーなどについて統計をとることだ」
「はい、やってみます」
「大きな問題を起こしているVIPの社員が見つかったら、場合によっては社員の上司に知らせることも必要だ」
「わかりました」
「だが、これは根深い問題だよ。たとえば、その上司さえ癒着していることだってある。いずれ、大きな問題が生じるだろうが、VIPに浄化作用する力があるかどうかだ。負けないようにしたいものだね」
久山部長が「いずれは大きな問題が生じるだろう」と言っていたが、三島課長と同じ職場の城山強一という男が問題を起こした。かねてより三島は、城山の行動に疑念を抱いていた。
城山は自分の職位を利用し、社外に金銭的な癒着と遊びのグループを作っていた。内川専務と組んで、NUS株式会社とNUS懇親会まで立ち上げた。「N」は中島有三社長のNであり、「U」は内川専務のU、「S」は城山の頭文字をとったものである。内川専務は中島社長と親密な関係であったので、新会社については、社長も文句なく賛同した。
加えて城山は、「ルビー」と称するクラブまで作っていた。VIPの取引先に対して、ルビーを利用するよう強制的に求めた。また、「城山社長サポート会」なるものを取引先に編成させ、密かに金銭を徴収した。
その金銭は、NUS懇親会で中島社長を招いての酒宴の席で使われた。酒好きの中島社長は、日本酒や高級ウイスキーを胃袋に流し込むように飲んだ。
飲酒するとすぐに歌を歌う。いつでも新曲を歌ったが、持ち歌は八代亜紀の「舟歌」であった。社長はマイクを口に近づけたり、遠ざけたりの大きなジェスチャーをつけて歌った。