地域の高齢患者の声に真摯に耳を傾ける医師が、その日常を綴る。コミュニケーションに悩む若い医師、必読。自ら「化石医師」と称するベテラン医師が語る、医療にまつわる話のあれこれを連載でお届けします。

在宅での看取り

若い時には年々の変化をあまり感じませんでしたが、最近は1年毎に体力の変化を感じます。入院を受け持てば当然ながら患者さんの急変で呼び出しがかかることがあります。

以前はそれほど苦にせず当たり前のように思っていました。しかし最近は深夜に呼び出しがかかると少し「きついな」と思うことがあります。ましてや翌日も診療があると思うと足の運びもついつい鈍くなってしまいます。

早朝深夜を問わず、プライベートも返上の緊急呼び出し

家に近いからとある他院に入院されていた患者さんがおりました。しかしがん末期であり在宅での看取りを希望されて退院されました。訪問看護ステーションから私に電話がかかったのは朝4時頃でした。

その時私は釣友と共に釣り場に向かい車を走らせていました。

容態が急変したから診察して欲しいと言うのです。それまでの主治医は「遠いから出向けない」と看取りのための訪問を拒否。亡くなっても死亡診断書を書いてもらえない。ご家族が困ってのSOSでした。釣行は断念し訪問です。

脊髄小脳変性症で治療を続けていたKさんの場合も朝でした。言語障害、嚥下障害があり呼吸が悪化しました。訪問して欲しいというご家族のご依頼でした。その日は外来担当日でした。

診察前の諸々の雑用をキャンセルしたとしても患家までの往復には小一時間かかります。「うーん。外来開始時間に間に合うかな」。戻ったのは診療開始時間ぎりぎりでした。

高齢社会、医療費高騰を背景に国の在宅医療推進施策はますます加速しています。昔のような在宅での看取りを視野に入れた在宅医療です。しかし国の想定のような看取りを含めた在宅となれば当然ながら訪問診療が必要となります。

狭い地域で訪問患者さん宅が比較的まとまっている場合はともかく、当地域のような人口密度の低い地域で点在する患者さん宅を訪問して回ることはなかなか困難です。