マンションの部屋へ帰り、私は本を見ながら、初めてのマフラー作りを始める事にした。色々編み方が載っていたが、初心者でも簡単にでき、しかもシンプルに仕上がるガーター編みにする事にした。
本を見て、幅一八センチのマフラーになるよう、編み針に、二十七目作り、編み針を二本あやつって、ひと目、ひと目、丁寧に編み始めた。二段、三段と編み進んでいった。
十二月二十日に、このマフラーをクリスマスプレゼントにしたいと思い、一生懸命に編んだ。『ココ』でも、私はマフラーを編んだ。
母親に自殺された彼の悲しみを思うと、冷えた心の氷を、暖めて溶かしてあげたいと思い、祈りを込めて、ひと目、ひと目と編んでいった。もともと器用な私は、初めてだが、うまく編み進め、一八センチの幅が、ガタゴトする事なく、真っ直ぐに編み続けられた。
仕事は順調だった。勤めだして半年も過ぎ、秘書室長とも息が合い、長年勤めてきたかのように、テキパキとこなせた。
秘書の仕事は、朝一番に新聞各紙の訃報欄を見る事から始まる。各界の著名人で、亡くなった人の中に、社長や会社と関係のある人がいるか探し、あればコピーし、室長に報告する。