アリとキリギリス
将太は賢一を見た。
「おい、お前」
「は、はい」
「小学校の時、こいつに助けてもらった事を忘れるんじゃないぞ。こんな仲間、中々いないからな。こいつらなんか、俺が高校生に袋叩きにされている時、全員逃げたからな」
将太はそう言って周りを見渡した。それを聞いた、剛史と他の三年生は困った顔をしていた。すると、いつも大人しい賢一が突然、嬉しそうに言った。
「こいつは親友以上で、兄弟みたいなものですから!」
それを聞いた将太は微笑んだ。
「そうか……もう行っていいぞ」
将太の顔は満足そうだった。禅と賢一は挨拶をすると、その場を後にした。
それを剛史が不満そうな顔をして見ていた。少し歩くと将太の怒鳴り声が聞こえた。
「おい!」
禅と賢一は恐る恐る振り返った。
「これ、チクるなよ」
将太はそう言って、持っているタバコを上げた。
「もう、お前たちを殴りたくないからな」
将太は、そう言って笑った。
「もちろんですよ」
禅は、そう言うと賢一を見た。賢一も禅の顔を見ると、うなずいた。
「頼むぜ」
そう言って笑う将太の笑顔は優しかった。二人は、その笑顔を見て思わず微笑んだ。