パン屋のポロン
ぼくは、何か食べさせてくれる人をさがしまわった。でも、だれもぼくには見向きもしない。
それからは、ずっと町中をさまよった。残飯が入ったゴミ袋をあさっていると、見たこともない猫仲間から噛みつかれそうになって、必死で逃げた。仲間もみんな食べ物さがしで必死なんだ。
時々、急に大きなゆれや小さなゆれがやってくる。そのたびに身をかくさないといけない。
強いストレスのせいか、だいぶ毛がぬけ落ちてきた。神様は、ぼくをひとりぼっちにしてしまったんだ。
知らない空き家にいると、おじちゃんとおばちゃんが、ぼくをかわいがってくれたことが、ずいぶん昔だった気がする。もう会えないのかなあ?
昼間は、あちこちで瓦礫の処理をする人や、屋根にブルーシートを張ったりする人の姿が見えるんだ。いろんな音がして、とてもにぎやかだ。
でも夜になると音のない世界に変わってしまう。明かりがほとんど見えない。
暗やみの中でも、ぼくの目は瞳孔が開いてまんまるになるから、夜目(よめ)が利(き)いて見えるんだ。とっても便利だけど、そのぶん、さびしくなってくる。