「叙達(シュター)さま」
曹洛瑩(ツァオルオイン)は、私の右腕をとり、華奢な肩にまわした。
「表に、車を待たせてありますので……門のところまで、こうして参りましょう」
曹洛瑩(ツァオルオイン)をさきに行かせて、車で待っていてくれるよう、たのんだ。そして、あたりをうかがい管姨(クァンイー)や、飛蝗(バッタ)少年の目がないことを、たしかめた。ここに、あの子が来たことを知るのは、石媽(シーマー)だけだ。
「さっきは、邪慳(じゃけん)にしてすまなかった」
「あの子、いったい、何者なんだい? ふつうの娘じゃないわね」
「事情は、あとで話す。このことは、誰にもしゃべらないでくれ。絶対にだ。もれたら、あの子は、つかまって殺されるかもしれん」
「いいわ、約束する」
力の入った目で、私を見た。
「気をつけてね。見つかったら、真相を吐くまで、とっちめられるよ」
「かえったら顔を出すから、管姨(クァンイー)がもどって来ていれば、おしえてくれ」
「うん、わかった」
石媽(シーマー)は、私の背をたたいて、送り出してくれた。
塒(ねぐら)へもどって来たとき、ふところには、五十両の銀塊が入っていた。
その重さは、長い忍辱の日々に見合うだけのものではあったが、心にずっしりとのしかかって、ふかく沈み込ませるものでもあった。
空虚さと、悲しみとをない交ぜにした感情のかたまりが、肚(はら)から胸にせり上がって来た。
泪(なみだ)が、ぽたぽた落ちて、やがて何も見えなくなった。