第2章 社会

私はどうなる?

87歳のKさんが悲しそうな顔をしています。「どうされました?」Kさんは娘さんに先立たれ、89歳のご主人と娘婿との三人暮らしでした。

「主人が認知症で、施設に入所しました。様子を見に行ったら、タクシー代が片道6500円もかかった。これはたまらんとバスにしたら、3回乗り換え、さらに長い坂道を必死の思いで上って、ようやくたどりついた。あんな思いはもうできない。

おじいさんの顔も見に行けない。婿は孫から『自分達の所へ来なさい』と言われ、孫の所へ行ってしまった。私は一人になってしまった。下の娘の嫁ぎ先は遠くで来て貰えない。うつ病で隣の市の精神科にも通っているが、私は車の運転もできない。私はどうしたらいい」。

87歳ですから運転免許があったとしても運転はしない方がいい。でも困った問題です。通院も困難、ご主人の顔も見に行けない。たった一人の生活です。

精神科からの薬は化石医師の診察時に一緒に処方することにしました。同じ町内の当院ならKさんも何とか通うことが出来ます。後はKさんが孤独にならず、在宅生活を過ごせるような体制づくりが必要です。

90歳のMさんとは私が当院に赴任した時からの付き合いです。96歳で亡くなられたお姑さん、やはり亡くなられたご主人、娘夫婦、孫夫婦みな患者さんであり、知り合いです。今日のMさんはいつもに比べ明るい顔をしています。

おや? 今日は息子さんが付き添っての受診でした。「これが長男です」「知ってる。知ってる」。何か異変があったのか心配しましたが、異変はなかったようです。Mさんの受診はいつも通院バスを利用され、一人でした。