家の中は食うや食わずだ。遊郭にでも行って奉公してもらうほかはないんだ。それでみんな助かるんだ。餓えなくてすむんだ。くだらねえことを考えてるんじゃねえ。夢みてえなことを考えてるんじゃねえ』……そう、夢よね、夢、私らが女学校で勉強するなんて夢のまた夢なんだ」
「トメさん……」

美津はトメの現実に何と答えてよいか分からなかった。

「死んでしまいたい。もう死んでしまいたい。あんな所へなんか帰るのは、いや! 体を売るなんて……今にあの男たちが私を追ってやって来る。美津さん、美津さん、私どうしたらいいの?」

トメの目に涙が溢れ、助けを求めるように美津の手を握りしめた。

「トメさん大丈夫よ。ここにいるかぎり大丈夫だからね」
「美津、お父さんだよ」

襖越しに声がした。トメはびっくりして隠れようとしたが、父の孝太郎は襖を開けてすっと入って来た。背が高く、がっしりとした体躯である。