第二章 日本のジャンヌダルク
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【法隆寺(ほうりゅうじ)】
「では、なぜ柱が門の真ん中に立っているのか、という問題の結論はどうなったんですか」
こんどは沙也香が聞いた。
「中門を入ると左右に回廊が造られていましてね、金堂と五重塔をぐるりと囲んどります。まだ最終的な結論にまではなっていないようですが、真ん中の柱は、右と左の回廊の出入り口として人の流れを整理するために造られたのではないか、という説が出てきました。この考え方がどうやら主流になってきてるらしいですよ。つまり金堂と五重塔がある中の広場は聖域で、一般の人は立ち入り禁止になっている。そやから参拝者は回廊のまわりをぐるぐる回るだけやと。それがインドではふつうの礼拝スタイルらしいですな」
「ああ、そういうことですか。広場に入るための門ではなく、回廊に入るための出入り口なら、真ん中が空間になっている必要はないですよね」
「ただし問題は、すべての寺でそうなっているのではなくて、真ん中に柱があるのは、法隆寺の中門だけなのはなぜか、ということです。ほかの寺の門ではこんなことはしていませんからな」
「そうですね。それは変だわ」
「これはなかなか結論が出そうにないですな。なにしろ造った人はもうおらんのやから」
「ふーん、結局、そういうことなんだぁ」
まゆみががっかりしたようにつぶやいた。
「ほな、中に入ってみましょか」
坂上は笑いながら歩きはじめた。金堂にはさまざまな仏像が安置されているが、中央に置かれている国宝の釈迦三尊像(しゃかさんぞんぞう)が本尊だ。だが東側に安置されている同じく国宝の薬師如来像(やくしにょらいぞん)がもともとの本尊だといわれている。