医療には原因を除去する根本的治療と対症療法とがあります。例えば細菌感染の場合、その細菌に効果ある抗生剤を使用することは原因除去治療であり、熱があるからと解熱剤を使用することは対症療法です。
今回の場合に当てはめれば転倒する恐れがあるからと身体拘束することは対症療法に過ぎず病棟スタッフが取った対応は原因除去治療であったとも言えます。姑息的な対症療法に対し原因除去治療が優れた治療であることは言うまでもありません。
さて「ひっきりなしに起き上がり振り回されて仕事ができません」。そんな苦情が届きました。仕事上看護スタッフは採血や注射などを行います。その結果認知症患者さんの感覚では自分に苦痛を与える存在であるのに対し、医師は嫌なことはしない存在です。
そのためか認知症患者さんの場合でも何故か私の言うことを素直に聴いて貰えます。スタッフに殴りかかったり、かみついたりし抵抗される方であっても、私にはあまりそのようなことはしません。
その夜私は30分程問題の患者さんのそばにいました。何度か起き上がろうとする度「大丈夫ですよ」と声をかけると「ありがとう」とまた元に戻ります。その夜は鎮静剤の使用もなく眠られ、以後苦情もあまり聞かれなくなりました。
ユマニチュードとは「人間らしく」の意味だそうです。