第4章 人の資産を“見える化”する

いったい何を学べばよいか

「企業は人なり」、この基本的概念をいかに決算書に反映させ、人を育てる経営を実現できるかという視点で技術的な話を続けてきました。

ここからは、「企業は人なり」という前提に立ち、人を資産として育てるためには具体的にどうすればよいのか、未来力をつくり出すための教育内容について話していきたいと思います。

これまで何度も触れましたが、給与の3倍を稼ぎ出すために私たちは何をし、どんなことを学べばよいのでしょうか。また、一生懸命努力しているにもかかわらず社員力がつかないのはなぜなのでしょうか。

加えて、これから述べますように昔では考えられなかった現象が起こるのはなぜでしょうか。今日の日本人には何が足りないのでしょうか。こうした観点から社会全般を眺めてみたいと思います。

社会的弱者である高齢者を狙って振り込め詐欺を働く。昔ではまったく考えられなかった犯罪が横行しています。一生をかけて働き、老後の唯一の拠りどころとして貯めたお金を掠かすめ取るとは、本当に信じられません。

人が犯してはならない、最も罪の重い部類の犯罪です。それも組織的に「仕事」として行っているといいます。まことに信じられないことです。

また人通りの多い繁華街で通行人を次々とはねていくなどの無差別殺人も頻繁に起こります。日頃のストレスを発散したかった、社会に向けて復讐したかったなど、これまた信じがたい動機が聞かれます。

コンピュータで遠隔操作を行い他人を爆破予告の犯罪者に仕立てる。その罪で逮捕されたあとも、選任された弁護士にまたうそをつく。自社の個人情報データを横流しし、企業に数百億円の被害をもたらす。

コンビニエンスストアの監視カメラに自分が映っていることを知りながら平然と万引きを繰り返す。地検特捜部の検事が証拠データを書き換えるなど、信じがたい事件があとを絶ちません。日常的にも他人を誹謗中傷する行為を繰り返す者やクレーマー、モンスターペアレントと周囲に迷惑をかける人があふれています。

いったい人々の道徳観、倫理観はどこへ行ってしまったのかと思われる時代になりました。

大多数の人は健全な精神の持ち主です。しかし、こうした犯罪情報に日々接する中で、健全な人が、その影響をまったく受けないという保証はありません。

2008年に精神疾患を有する患者数が300万人を超えたことを受け、厚生労働省が2011年に精神疾患を、がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病に加え5大疾病としたのもうなずけます。それだけ心の問題は深刻化しているということです。

第1章の冒頭でも述べましたが、NHKテレビで放送されている『鶴瓶の家族に乾杯』に見られるように、私たち日本人は誰もが健全で穏やかな心を持っています。そうした本質を見直しながら、企業における人の資産づくりを手がけていかなければなりません。