「そうなんですわ。いまは警察署詰めで事件を追っかける仕事をやってますが、数年前までは文化部におりましてな。そんとき、高槻はんには、いろいろとお世話になりましたんですわ」
「文化部というと、文化事業の状況とか、文化面での出来事とか、そういうことを記事にする部署ですね」
「そうそう、そういうことです。特にこの地域では、遺跡の発掘などで新しい発見があったときなんか、その発見に対してどんなことが考えられるか、ということをわかりやすく的確に、読者にどう伝えていくかが大事な要素になってきます。
そんときに、高槻はんからいろいろ教えていただきました。あの人はですなあ、他の人とはぜんぜん違うことをよういわはりました。それでわたしはそれを記事にして、ええ目を見させてもろうたんですが、あの人は、ほかの学者からはけっこう叩かれとったようですなあ」
「そうですか。ほかの学者とはずいぶん見方が違っていたんですか」
「そうです。考え方がどこか根本的に違ってたんやないですか。定説を否定するつもりかと、ようつるし上げられてたらしいですわ」
「ああ、そういうことですか。なんとなく、わかるような気がします」
「まあ、そんな恩がありますんで、今回のガイド役を買(こ)うてでたんですわ」
「ありがとうございます。助かります。よろしくお願いします」
「で、今日はどこへご案内しましょう」
「そうですね。いろいろ考えたんですけど、まず橘寺(たちばなでら)ですね。それから、やはり法隆寺(ほうりゅうじ)。そのあと、もし時間があれば……」
「ハハハ……そら無理や。そんだけ回るだけで日が暮れますわ」
「そうでしょうね。ではその二カ所に連れていっていただけますか」
「了解です。ほな、行きましょか」坂上はさっさと先に立って歩き、二人を自分の車まで誘導した。