第一章 ほうりでわたる
水力発電所の応援
新小倉発電所の建設が落ち着いたころ、宮崎県の諸塚(もろつか)水力発電所の建設に十人ほどのメンバーで応援に行くことになりました。他社が工事を請け負っていましたが、工期が間に合わないということで、急きょ応援となりました。
耳川(みみがわ)水系に建設されたダムから巨大な送水管を通して下りてくる水量は五万キロワットの発電を起こします。発電所は揚水式で水車の羽を稼働させる(羽根のピッチを変える)カプラン水車です。
揚水式とは夜間の余剰電力を使って発電機がモーターに切り替わり、下に溜まった水を逆に送水管を通して上のダムに汲み上げ、またその水が発電機を回す力になるのです。山や川の多い日本では、この方式の水力発電が多いようです。
発電機や水車はたいてい地下にあるために湿気が多く、作業中は汗と湿気でびっしょり濡れます。今まで経験してきた火力発電と違って作業がやりにくいのです。
私は補助機器の据え付けと配管工事を担当しました。
作業後の飯場は他の業者との交流の場所でもあり、花札や将棋などをして過ごしていました。山奥なのでバスは一日朝夕二往復です。現在はもっと開けているでしょうが、当時はちょっと町までというわけにもいきませんでした。
山間の村には娯楽も少なく、スナックや飲み屋が一、二軒ある程度でした。宿は民家の二階を借り切り、八畳二間に十人で寝泊まりです。
夏でしたので、二張りの蚊帳の中で、男十人がごろ寝で過ごしました。それでも楽しい思い出となりました。朝夕、村のスピーカーからオルゴールのBGMが山峡にこだましていました。今でも残響のように耳底に潜んでいます。
耳川の静かな水面に向かって石を投げ、水切りをしたあの日も懐かしい思い出です。もう一度あの場所に行ってみたい気持ちになります。
発電所の建設において、火力、水力ともに経験できたことは私の財産となっています。