「これはフランスの例だけれど、未曾有の金融危機で仕事を失った四十六歳の女性が、前任者の正社員と同じ待遇で仕事を得た。

前任者の正社員と同じ待遇にするという、同一労働同一賃金の原則が法律に盛り込まれている。均等待遇だね。

シングルマザーで年収五〇〇万、家を買い、一人息子も育てあげた。もちろん派遣なので安定した雇用ではない。だが日本と違ってセイフティネットがしっかりしている。

職業訓練による資格の高い仕事に導くというセイフティネットがある。使い捨てではないんだ」

「日本と欧州の違うところは、この均等待遇とセイフティネットよね。人を人として扱っている。生活ができるように、ちゃんと手立てを与えているんだから」

「そうだよね。日本にはそういう観念はまったくないんだ。二〇〇四年に製造業派遣が解禁されたときも、労働者側が『均等待遇やセイフティネットなしでは危ない』と反対しても、経営者側は『やってみて問題が起きれば対策を取ればいい』と押し切ったというんだからね。

それでいて問題が出てきたとわかっているのに、なんの手立ても打っていないんだから。いい加減なもんだよ」

「厚生労働省労働政策審議会の議事録に残っていた文句ね。先生、顔を真っ赤にして怒ってらしたわ。それが大きな問題となっているというのに、今までなんの手立ても打ってきていないんだから。

たくさんの非正規の人たちが苦しんでいるというのに。心も体も病んでいる人が増えているというのに。その場限りのいい加減なことばかり言ってる!

要するに自分たちの利益になることしか考えていないのよ! 若者の将来のことなんかまったく考えていないんだわ」

春の息吹が燃え立つように、未希の正義感が火を噴いた。

「大阪の友だちと話をしているとき出てきたんだが、経済界の重鎮が、『これはなんとかしなくてはいけない』と言いだしたそうだ」