「先に言ったもの勝ちだ」
「もう……」
よし子は、雅彦の肩に、そっと頭をのせた。
「約束よ。二人で、うんと長生きしましょう。何度でも、この露天風呂に、一緒に入りましょうね」
「ああ。何度でも」
雅彦が、よし子の頬にそっと触れた。湯けむりのなか、二人は静かに、唇を重ねた。
(人生は、何度でも、やり直せる。48歳で女将になり、52歳で夫の命を案じ、そして今、また二人で、新しい春を迎えている。遅すぎることなんて、何ひとつ、なかった)
それから数日後、藤乃屋の座敷に、家族が集まった。よし子と雅彦、美咲、大輝、そして千鶴。みんなで、湯気の立つ温かい鍋を囲んだ。たわいない話に、笑い声が、いつまでも絶えなかった。
「来年も、再来年も」
雅彦が、湯気の向こうのよし子を見つめて、言った。
「この鍋を、家族みんなで囲もう。何度でも、何度でも、な」
よし子は、深く、深く頷いた。胸の奥に居座っていた、あの黒い影は――もう、どこにも、なかった。
「月川みのり・新作公開記念!『愛され未亡人の、湯けむり恋物語』ピックアップ」
次回更新は11月5日(木)、17時の予定です。
月川みのり氏・最新作も11月からGLOで連載開始予定! お楽しみに!
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夫が毎朝、早朝にフラッと家を出て、朝食前に何事もなかった顔で戻ってくる…後をつけると、小さな寺の墓地へ…
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“ある条件”さえのめば、月給32万円のハロワ求人…娘に見せると震える声で「月に1度は必ず帰ってこれるんだよね?」と…
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