グラスの中身に喉を湿らせたユーコが、メッサーに尋ねた。
「は、なんでしょか?」
質問を促す一声、妙におどけた返し方に、ユーコは目を細める。笑い出しそうになるのを堪え、長年温めてきた問いを投げかけた。
「シルト君と初めて会ったのって、いつ?」
「二十年くらい前ですかね。初めて共演したのは、ここです」即答したメッサーが、首を傾(かし)げる。「ご存じでしょう?」
「もちろん」
ユーコは自信に満ちた表情で、首を縦に振った。若かりし彼らが初めて共演したステージは、彼女の言うように二十年近く前とはいえ、今でも鮮明に思い出せた。
互いの音を楽しみながら、瑞々(みずみず)しくも洗練された技巧を、惜しみなく発揮し合うピアニストとシンガーの姿。剣を極めた強者同士が、満面に笑みを浮かべ、全力で切り結んでいる。観客の一人として見守っていたユーコにそんな場面すら思い起こさせる迫力のあるステージだった。
よく覚えているとの返答が戸惑いを深めたか、メッサーの首がさらに大きく傾(かし)いだ。最初の質問の意図が、なおのこと分からない。動作がそう語っている。
疑問を理解したユーコは、メッサーに問いかけた理由を説明し始めた。
初共演のステージのリハーサルから不思議に思っていたのだ、互いに初めましてと挨拶を交わすような間柄にしては、やけに気心が知れていると。
会話も雰囲気も、初めて合わせると言っていた演奏ですら、長いこと音楽家達とライブを見続けてきたユーコでさえ、何十年も一緒に組んできたデュオユニットかと錯覚してしまうほどに。しかし、彼らはこれが初めての共演と語っていた。
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