将来のことも見据えて寺子屋に通わせてもらっていたお琴には同じ学友もいたが、お琴の通っていた寺子屋では女児が寺子屋に通うのは珍しく、人数もごくわずかで大半が男児ばかりだったことをお琴は今でも覚えていた。
お琴が特に頑張っていたことが算盤であったが、教養としてお琴はしっかりとそれ以外のことも学び身につけようと努力をしていた。
(両親を手助けしたくて必死に覚えていたと思う)
楽しかったこともあれば子ども心に辛く感じたことも今となっては良い経験になったと思っていた。そんなふうに懐かしい記憶を振り返っていると村と村の境まで歩いてきていることに気づく。
まさかここまで歩いてきていたなんて考えていなかったお琴だったが、空を見上げて陽がまだ頂点にきていないことを確認してから、もう少し散歩をしてから自宅へと帰ろうと考えていた。歩き始めようとしたときに再び正面から誰かが歩いてきていることに気づく。
お琴からは何かを背負っているように見えた人物がはっきりと誰なのかわかったときにその人と目が合った。
「君は先日の……」
「お琴と申します。先日はありがとうございました」
「ああ」
お琴の向かい側から歩いてきたのは縁談の相手であった歳蔵であった。黒い木箱を背負っている様子から歳蔵の実家で製造している【石田散薬】の行商をしていると考えられた。石田村の土方家が薬の行商をしていることはお琴が住む村でも話を聞くほど有名な話である。
しかし仕事をしているところを邪魔するのはいけないと考えていた。
「では、お仕事の邪魔をするのも申しわけありませんし、私はこちらで」