2 鳴門──芸術が語る「いのち」と戦争
10月22日(淡路島→大塚国際美術館→四国三郎の郷)
淡路島を出発し、雨の徳島を抜けて鳴門の大塚国際美術館へ向かった。美術館入り口から約40mのエスカレーターを上ると、目の前に実物さながらのシスティーナ礼拝堂が出現し、一気に別世界へ。陶板で再現された名画の数々は、写真で見るよりも迫力があり、原寸大の空間に身を置くことで、絵に込められた作者の息づかいまで感じられるようだった。
古代から現代まで、世界26カ国・190余の美術館が所蔵する西洋名画が、陶板による原寸大の複製画として1000余点展示されている。世界で唯一無比の美術館だ。
なかでも私が毎回足を止めてしまうのが、ピカソの《ゲルニカ》だ。白と黒のコントラストが鋭く、馬の悲鳴や母の叫びが画面いっぱいに広がる。1937年、スペイン内戦中の無差別爆撃によって破壊された小さな町ゲルニカの悲劇を描いたこの作品は、戦争の残酷さを言葉を超えて突きつけてくる。
絵の前に立つと、私は静かに息をのみ、しばらく動けなくなった。そこに描かれているものは、単なる過去の出来事ではない。現代でも、世界のどこかで似たような悲劇が起きている。ニュースで見るウクライナや中東の映像が、頭の中でゲルニカの断片と重なった。
芸術は、人が言葉にできない感情や叫びを、色と形で表現する力がある。それが科学と異なる力だ。科学は世界の仕組みを明らかにするが、人の心の深い痛みを説明することはできない。しかし芸術は、その痛みをまるごと受け止め、時に未来への警鐘を鳴らす。
ダリの《ゆでたインゲン豆のある柔らかい構造:内戦の予感》は暴力の、戦争への痛みや怒りが、エルンストの《沈黙の目》は第二次世界大戦の惨禍に対する深い意思を表示している。その他多数の戦争や暴力に対する憤りを表現した作品が目につく。
それにしても人類はなぜ戦争をするのだろう。そして今なお権力の座を狙うのだろう。ダヴィッドの《皇帝ナポレオン1世と皇后ジョゼフィーヌの戴冠》はそのスケールそのものに、見事に描かれている。その頂点に権力が座る。
*1 コラム4 元素とは
1.デイヴィッド・クリスチャン(2019)『オリジン・ストーリー 138億年全史』(筑摩書房)
2.デイヴィッド・クリスチャン、シンシア・ストークス・ブラウン、クレイグ・ベンジャミン(2016)『ビッグヒストリー:われわれはどこから来て、どこへ行くのか』(明石書店)
3.篠田謙一(2022)『人類の起源』(中央公論新社)
次回更新は11月4日(水)、18時の予定です。
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