【前回の記事を読む】手ぶらで楽器店に来た女が、その場でピアノを即決購入――喫茶店で明かした実家の名に、茶道家元の息子は叫び……

ムーンライト・ソナタ

すると、子供が三人、元気に飛び出してきた。

「先生、またねー」「また来週ー」

「ほらほら、走っちゃ危ないわ。気をつけて帰るのよ」

「はーい」

「ほら、あそこがピアノ教室よ。月ちゃんはとても人気があるのよ」

犬の散歩の女性に軽く頭を下げ三軒先のピアノ教室へと向かった。子供達が無事に帰るのを目を細めて見送っていた月子は近づいてきた僕を見た。

「あら、龍二さん。お久しぶりね」

「ああ、元気だったかい?」

犬の散歩をしていた中年女性は“こいつはスクープ!”と言わんばかりに、犬を休ませまだこちらをじっと見つめている。月子はその視線を察し、

「さぁ入って、二回目のレッスンね」

聞こえるように言うと、女性は犬を引っ張り去っていった。

「早く入って」と小声で言い、僕がするりとドアの中に入ると月子は素早く鍵をしめた。

「あのオバサン厄介なのよ、おしゃべりで……」と言い、フウーっと息を吐いた。

「先生、二回目のレッスンはいかがいたしましょうか?」と僕は笑った。

「まず、レッスン室の見学からよ」

笑いながら月子は茶色の重い扉を開けた。防音対策は完璧だ。