部屋は20畳くらいだろうか。いかにも高級そうなグランドピアノがでーんと置いてあった。ピアノの奥行きは3メートルはあるだろうか。

まだ子供の指跡が残っているが、毎日きれいに磨かれていることは一目で分かった。これはもしや、と思いちょっとのぞくとやはりスタインウェイだ。ピアニストを目指す人なら誰でも憧れる最高級のピアノだ。

あれ? 僕はピアノの配置が変だな、と思った。なぜこんなに座った時に背中がくっつくほど極端な配置にしたんだろう? 部屋はまだスペースがあるのに。何か意味でもあるのだろうか? いや、ただの考えすぎだろうか。

「弾いてみる?」顔をのぞき込まれ、僕は我に返った。

「すごいピアノだね、驚いたよ」

「そうね。子供のピアノ教室にしては大げさかもしれないわね。

プロの演奏家がコンサートホールで弾くピアノのほとんどがスタインウェイなんだけど、スタインウェイは何て言ったらいいのかしら? ちょっと弾きづらいのよ。普段から使っていなければ、自由自在に弾きこなすのはとても難しいと言われているの。

輝くように重厚で甘い音色のピアノ。子供の頃からスタインウェイという最高峰のピアノに触れる事によって、研ぎ澄まされた感性を作り上げていく事ができればいいな、って思ったの」

「ふうん、月子先生の生徒さんがうらやましいな。でも高かったろ? このピアノ」

「はっきり言って高かったわね。でもね、私がピアノ教室を開く時にお祝いでじいちゃんが買ってくれたの。もう死んじゃったけど」

僕はラの音をぽーんと鳴らしてみた。手元ではなく向こうの壁からいい響きがした。

「本当に何でも弾いていいのよ? 昔、習ってたんでしょ?」

「もうずいぶん前だよ。へなちょこに弾くとピアノが怒るよ」

「あら、じいちゃんのピアノは心が広いのよ。じゃ、出ましょうか」