梅澤は、この数年間で地方の私立医科大学教授としては破格の研究費を獲得していた。文部科学省が主管する一般科学研究の中でも最高額の基盤A研究費を獲得していた。3年間で五千万円の大型研究費である。さらに、厚生労働省からは、梅澤が申請したIgG4関連疾患研究班が採択され、その班長に任命されていた。

その研究費も3年間で五千万円になる。勿論、梅澤単独で扱う研究費ではなく、研究班を組織し、多くの全国の研究者に分担金を配分して共同で研究を進める費用である。どちらの研究費も北陵医科大学始まって以来の快挙である。

「詐欺? 一体どの研究費のどの部分が詐欺にあたるんだろう?」梅澤には皆目見当がつかなかった。

「ウッ」思わず口から悲鳴が漏れた。緊張で忘れていた腰が再びきしんだ。

「すみませんが、腰掛けていいですか?」

「勿論、どうぞ。私も座らせてもらいます」

三井刑事が梅澤の対面のソファーに腰を下ろした。 梅澤の教授室には、壁一面に天井まで本棚が据え付けられている。

そこに、医学書、辞書、執筆した多くの教科書や医学雑誌などが並べられている。スペースの半分以上は、研究のために集めた論文のコピーが整然と並べられている。本棚の右の一角には、各種の研究申請書や学会関連の書類が規則正しく整理され、種目に応じてファイルに収められている。

刑事達は、作業が割り振られていたかのように各自が持ち場についた。デスクの引き出しを調べる者、コンピューターのスイッチを入れて内容を確かめ始める者、キャビネットを開けてフロッピーディスクやCDなどを調べる者、本棚のファイルから、一頁一頁慎重に目を通し始める者。三井はそれらを総合的に監督する立場にあるようだ。

「これは、何かの陰謀ですか?」と梅澤が尋ねた。

「……」三井は返事をしない。

「これは理事長の差し金ですか?」再度、三井に尋ねた。

「なんで、そんなことを言われるのですか?」

「自分は、今、理事長と裁判で争っています。その仕返しに思えるので」

「……」三井刑事は何も答えなかった。

刑事達の動きに眼をやりながらも、頭は素早く状況を理解しようとしていた。

2カ月前に理事長と面談した時のことを思い出した。