【前回の記事を読む】夜中や明け方に目を覚ますと、その後はうまく眠れない…この症状に10年以上苦しんだ。「どうして自分が?」と何度問い続けても…
prologue――あなたに伝えたいこと。
僕は、「あなた」の想いを、しっかりとお聞きしたい。しっかりと受け止めたい。その後、僕は、「あなた」を、ただ、ただ、ハグするかもしれない。「あなた」を、目の前にして、涙を流すかもしれない。その後、一緒に、笑顔になろうね。声を出して笑い合おうね。
そして、僕の経験を「あなた」に伝え、それが、何かの、きっかけになってくれれば、本当に、本当に嬉しい。今の僕を、今、生かされている僕を、どうか、あなたの目で、真っすぐに見てほしい。どうか、怖がらないで。どうか、遠慮しないで。でも、決して無理せずに、焦らないで。
そして、ありのままの「あなた」を、僕に見せてほしい。何も話さなくてもいい。ずっと、何もしなくてもいい。ずっと、あなたの声に耳を傾けているから。ずっと、あなたの目を見ているから。僕の想いを「あなた」に伝えるから。そして、ずっと、一緒にいるからね。ずっとだよ。
『指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ます。指切った』。約束。
ユ・ビ・キ・リ・ゲ・ン・マ・ン
episode1――運命の日。人生を変えた1日。44歳の健康診断の日。新しい冒険が始まった日。
2009年9月29日(火)。
その日は、朝から小雨が降っていて、少し肌寒い。夏の終わり、いや、秋の風が吹いていた。TVの天気予報では、最高気温がとても低く、この時期としては、平年とはまったく異なることを伝えていた。「皆さん、体調管理にはお気をつけください」と、アナウンサーは渡された原稿を読むことに徹していた。
家のリビングの窓から見える大きなケヤキの葉が、ゆらゆらと揺れていた。そして小さな粒の雨が、サラサラと落ちているのが見えた。そんな雨空。その日、これから起こる、何かを伝えようとしていたのかもしれない。僕は、まだそのことを知らなかった。9月も月末が近く、猛威を振るっていたその年の夏の暑さも、後ろ姿を見せようとしていた。
その日、僕は、朝起きてから何となく、気分がすぐれなかった。天候のせいか、暑い夏を乗り切った疲れのせいか、それとも、その日の体調のせいか。それは、僕自身にも、はっきりとはわからなかった。ただ何となくカラダがだるく、いつもの調子とは明らかに異なっていた。
「そんな日に、健康診断か……やれやれ」と、僕は心の中で呟いた。
我が家は4人家族。妻、子供が2人、小学生と幼稚園生、そして僕。オープンキッチンでは、妻が手際よく朝の料理を作っている。いつも通りの動きで、いつも通りの眼差しで、朝ごはんとお弁当を作っている。毎朝の妻のルーティン。子供たちは、パジャマから着替えを済ませ、昨日の出来事や、今日の予定などを妻に語りかけている。
「おはよう」と、僕は家族に言った。
「おはよう」と、家族は返してくれた。
「何か元気がないわね。具合でも悪いの? 大丈夫?」と、妻は心配そうに聞いてくれた。
「大丈夫。ちょっと疲れているだけだと想う。ありがとう」と、僕はそう答えた。
「夏の疲れが出る頃なのよ。無理しないでね」妻は僕の目も見ずに言った。
「うん、そうだね。無理はしないようにするね。君は大丈夫?」僕は、キッチンに立つ妻の後ろ姿に向かって語りかけた。
「わたしは平気よ。忙しくって病気なんてしていられないわ」と、妻は相変わらず僕のほうを見ずに、いつものように、朝の準備をしながら答えた。