1分ほどしただろうか?
ハッと我に返った。
時間がない。鼻血なんかでもたついている場合じゃない。とにかく答えを書かなくては。
悠太は姿勢を正すと、ティッシュで指先を拭い、再び鉛筆を持った。
(tが1/2より大きいか小さいかで場合分けするんだったが……)
悠太は一心不乱に書き殴った。
(解答)
図よりSの座標は(1/2,0,1/2)。
したがって、
線分PQと平面x=tの交点 (t,1-t,0)
線分PSと平面x=tの交点 (t,0,1-t)
線分QSと平面x=tの交点は、Q(0,1,0)とS(1/2,0,1/2)をt:1/2-tに内分した点だから……。
「ヤメ。鉛筆を置いて下さい」
鋭い声が室内に響き渡った。
(ああー! だめだー!)
体中の力が抜けた。
教室内は響(どよ)めきとも嘆きともつかぬ異様なざわめきに包まれた。
答案用紙が回収されていった。
机の上には、血染めのティッシュが丸まっていた。
悠太は鼻栓を抜いて、口の周りをティッシュで拭き取った。鼻血は止まっていた。
受験生が大方退出するのを待ってから、悠太は教室を後にした。
トイレの鏡に映る悠太の顔は青白かった。汚れを洗い流してから建物の外に出ると、すでに夕暮れが迫り、受験生の姿はまばらだった。途中、ベンチに腰を下ろして一息ついた。ひんやりとした空気が悠太の火照った顔を撫(な)でていった。
得意の数学がここまでひどいとはまったくの予想外だった。まともにできたのは6問中2問だけ。部分点を掻(か)き集めても、せいぜい4割止まりだろう。
周りの受験生も沈んだ顔をしていたのがせめてもの慰(なぐさ)めだが、合格の可能性は潰(つい)えてしまった。明日の理科と英語で奇跡でも起きない限り合格は無理だ。
ぼんやりと視線を上げると、白衣姿の男性が二人、目の前を颯爽(さっそう)と通り過ぎていった。
悠太が憧れる研究者か、それとも医者だろうか。しかし、悠太には遠い世界の住人のように見えた。
思わず、深いため息がついて出た。やはり、T大に入るのはそんなに生やさしいことではないんだ。
キャンパス近くのホテルに戻る悠太の足取りは重かった。
次回更新は10月23日(金)、18時の予定です。
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