母が私に留学を勧めた理由は他にもありました。今は、女性も結婚をしてからも仕事を続けるのが普通になってきました。しかし当時、まだ日本では20代後半になると“肩たたき”といって、居づらくなる会社も少なくありませんでした。
「大学を出て、就職をして、結婚をして仕事を辞めて、その後はどうするの。皆と同じことをする必要はないでしょ」というのが母の口癖でした。「語学が出来れば、家庭教師をしても自分の自由になるお小遣いぐらいは稼げるでしょ」
母がこう言うには、理由がありました。母のスペイン舞踊の先生は名家出身でした。まだアメリカやヨーロッパに船で行く時代に海外に行っていました。先生のお父様は、娘が一生、好きな踊りをしながら贅沢に暮らせるだけの財産を残したそうです。
ところが突然、貨幣価値が変わってしまい、無一文になってしまったそうです。そのため、母はずっと私に言っていました。「お金に頼ってはだめよ。お金はいつなくなるかわからないから。身につけた技術は一生自分の宝になるのよ」母は正しかったと、今は胸を張って言えます。
第1章 スイスの全寮制寄宿学校に入学
学校名はマタンカルム
かりんは、中学校を卒業してからスイスの全寮制寄宿学校に入学することになりました。レマン湖のほとりのラ・トゥール・ドゥ・ペ(La Tour-de-Peilz)という町に建つ学校の名前はマタンカルム(Matin Calme)。フランス語で〝静かな朝〟という意味です。
後に町の人たちからはマタンカルムではなく“ラ・ヌイ・アジッテ”(La nuit agitée)(落ち着かない夜)だと言われるようになりました。その答えはこの本の中にあります。
次回更新は10月21日(水)、14時の予定です。
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