【前回の記事を読む】焼け跡から発見された5人の遺体…周囲の噂に耳を澄ませると、とある“代行業者”として暗躍していたことが原因で……

惰走は駛走に変わる

昼過ぎのこと、博徒らしき男が訪ねてきて奥へと入っていった。滝本は、しばらくして出てきた男を追いかけて「仙石一家の者か?」と声をかけた。

振り返った男は明らかに動揺していた。咄嗟に貸元ではないと感じ取った滝本は「貸元と話がしたい」と言った。

男は「なにを言ってるのか、わからねえな」と言って、歩き出す。

滝本は追いかけることはしなかったが、近くの建物に隠れて男の様子を窺った。すると、男は歩きながら何度か後ろを振り返っていた。まるで、滝本がついてきていないか確かめるかのように。

男が向かったのは、三村が通っているであろう賭場がある、大岡川の下流方面だった。滝本は、時間を置いて賭場の入り口が見える場所で張り込んだ。やはり、男は賭場の中から出てきた。難しい話でもしていたのか、神妙な顔つきをしていて、先程滝本に話しかけられたことも忘れてしまったかのように、周囲を警戒する様子はない。

昨日と同様、夜に奥から出てきた三村は、賭場へと向かった。中に入るところを見届けた後、滝本は火事の現場へ向かった。現場検証などが終わった今であれば、仙石一家の者が、仲間を弔うために訪れてもおかしくはなく、今はそれに賭けるしかない。

五月九日付けの新聞に、火事の記事が掲載されていた。亡くなったのは五人で、全員の身元どころか性別も判明していないということだった。警察は煙草の火の不始末が原因との見方を示しているらしく、事件性は低いと締め括られている。

保土ヶ谷の空き家の床下に隠してあった金庫から、金は取り出してある。それと、浅田の手元にあった金を合わせても、三百円ほどだった。三村に支払う額には足りていない。

金策の当てがないわけではない。今や商社の社長となっているかつての顧客から、借りることは可能かもしれなかった。しかし、こうした場面でも賭博犯処分規則の影響は大きい。規則を盾に、脅しをかけられているのではないかと、疑いを抱かせることになりかねない。最悪の場合、警察に逮捕されてしまう。

借りられたとしても、返すあてがないのも事実だった。子分は今や一人しかいない。その北山も、信用に値するかどうかは疑わしいところだった。

先代の日下の死に関与した疑いのある平井と、兄弟分になることはできない。支払いの期限までまだ二十日程あるが、事態が好転する見込みもない。支払いをせず、兄弟分になることも拒めば、平井は自分を殺すだろう。

浅田に残された選択肢はいくつかある。それらを見越して、畳を上げた。浅田の自宅もまた、賭場で負けた客から取り上げたものである。床板の下には三尺四方の地下室(ちかむろ)がある。商人の屋敷だったため、火事に備えて財産を置いておくために使われていたと思われる。

浅田はそこにリボルバー式の拳銃を置いていた。M一八七七ライトニング。日下から形見として譲り受けたもので、包んだ油紙から取り出すのは五年ぶりである。