佐渡は通りの向こうから、自分の命令を無視して違う男に職質を掛けた結城を怒りながら見ていたが、男が急に逃げ出したので、
「ぼけっとしてないで追跡せんか!」
そう歯痒そうに怒鳴りながら、太った体をだぼつかせながら男を追い始めた。
男はあちらの路地、こちらの横丁と逃げ回り、振り向きながら警察官が追ってこないことに気づき、やれやれと溜息をつきながら前を見ると、すぐ先の角から結城が出てきて立ちふさがる。
げっと喉を鳴らして男はそばの路地に逃げ込む。しかししばらく走ると、また目の前の路地から結城が姿を現すのである。
男は泣きそうになりながらも、また近くの路地に逃げ込んで必死に追っ手をまこうとする。持っていたポーチも放り出し、足は縺れそうである。
よれよれになりながらふと前を見ると、進行方向にまた結城が立っている。男はもう限界でその場に倒れ込んだ。結城はすうっと近づいてきた。その手には男が捨てたポーチが持たれている。男は薄気味悪そうに、
「おまえ、なんで俺の行く先がわかんだよ」
と情けない声を出す。そこへ遅ればせながら佐渡が追いつくが、ぜいぜい喉を鳴らして言葉も出ない。結城はポーチを男の目の前に近づけ、開けますねと中を確認し、男の鼻先に白い粉の入った小袋をひらつかせる。
「これはなんでありますか?」
けっ!と男は横を向き、佐渡は目をむいて怒鳴る。
「ゆっくり話を聞かせてもらおうか!」
その後、取り調べを受けた男は、ぼやきまくる。
「あんなしつこいお巡りは知らねえ。俺の行くところ行くところ先回りしやがって、あんな気色の悪いお巡りは初めてだ」
それは不思議でも何でもない。結城は男の上着のポケットにGPSを仕込んだだけのことである。
これが結城の初手柄だったのだが、佐渡はこの手柄を横取りしようとした。しかし犯人の供述とSNSに上がった動画でばれてしまった。
研修生の手柄を横取りというだけでも心証が悪いのに、ここぞとばかりに今まで佐渡が行ってきたパワハラ行為を証言する者が続々と現れ、とどめは佐渡の理不尽な暴言の数々が録音されたUSBが本部に送付されてきたことである。
結局佐渡は次の人事異動で小さな島の駐在所に飛ばされた。椿島駐在所……。そこに行った者は二度と本土には戻れないというところである。
試し読み連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。
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