コール・サック ―石炭の袋―

父親は黙ったままうなずくと、少し嬉しそうに当時のことを思い出しているようだった。

「お父さんよりも背が高い、大きなアメリカの兵隊さんが、道で血だらけになって倒れていたんだ。その兵隊さんを『石炭の袋』に隠して、トラックに乗せて日本の兵舎の中に入れたんだ。兵舎の中に外国人を入れることは禁止されていて、入口は中国の軍隊が見張りをしていたからね」

父親はそう言って幸子に笑いかけると、もう一度、空を見上げて天の川を見た。
幸子は父親の横顔を見つめた。彫の深い目が、夜空にたなびく天の川を見つめている。

幸子はなぜかしら、この横顔を見るのは、今日が最後であるような気がした。なぜそう思うのかわからなかったが、一緒に星空を見つめるのは、今日が最後のような予感が胸をよぎった。

不吉な予感が胸を締めつける。幸子は恐怖と悲しみに襲われた。父親と離れ離れになってしまう予感がして、恐怖に押しつぶされそうになった。

父親は夜空から視線を戻すと、幸子が泣きそうな顔をしているのに気が付いた。
そっと幸子を抱き寄せ、背中をさすりながら言った。

「幸子はお父さんが教えた、この家の秘密を覚えているかな?」

目に涙が溜まっているのを父親に見られないよう、幸子は下を向いて大きくうなずいた。
うなずくと、目に溜まっていた涙がポロリと頬に流れ落ちた。

「秘密の扉はどこにある?」

幸子は涙を見られまいと、下を向いたまま、小さな声で答えた。
「台所の水屋のうしろ」

父親は幸子の背中をさすりながら言った。
「そうだ。おりこうさん」