第1章

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昼過ぎに羽田をたったアミレーツ航空の飛行機は、アラブ首長国連邦の都市、ドバイを経由して、今、西アフリカのモロッコに向かって飛行しています。

機内は暗く、足元のフットライトがぼんやりと通路を照らしています。たまに洗面所に立つ人がいますが、ほとんどの乗客は寝入っているようです。羽田をたってから、もう二十時間が過ぎようとしています。日本とモロッコの時差は十八時間だから、あと三時間ほどでモロッコの首都ラバトのサレ空港に到着する予定です。

小野田タケルは、都内の私立大学を卒業すると出版社に就職しました。しかし、自分が思い描いていたような仕事が出来なくて、二年ばかり務めた後に辞めて、フリーのライターになりました。雑誌社や出版社、新聞社や旅行会社等から依頼を受けて、写真を撮り記事を書いて、依頼先に送っています。

主に、旅行会社からの依頼が多く、有名な観光地もあれば、これまで、観光客が一度も行ったことが無いような、山奥にある秘境の湯を訪ね当てて、旅行雑誌に記事を書いて写真付きで掲載をしたところ、観光客が押し寄せるという事態になり、果たして、これで良かったのだろうか?という疑問が、今でもタケルの心の中にあります。

一年前のある日、タケルが新宿の路地裏を歩いていると、ふと、小さな映画館が目に留まりました。タケルは、腕時計で時間を確かめてから、今、上映している昔の古い映画『カサブランカ』を観る事にしました。

この映画は、西アフリカのモロッコが舞台で、第二次大戦中、一人の男が自分の身の危険を顧みずに、愛する女性を助ける、というストーリーで、その男を演じていた俳優のハンフリー・ボガートが、何とも格好良かったのです。タケルは、自分もあのような男になりたい、と思いました。又、何時の日か、この映画の舞台になっているモロッコに行ってみたいとも思いました。

このような思いを抱いていたタケルに、旅行会社から思わぬ依頼がありました。アフリカのツアーを充実させたいのだが、何処が良いだろうか?という事でした。

アフリカといってもエジプトは、あまりにも有名な観光地で、旅行好きな観光客ならば、もうすでに行っているだろうから、エジプト以外の国を選びたい、地中海沿岸の国の中で、チュニジア、アルジェリア、モロッコの中から選びたい、という事でした。

タケルは、内心の喜びを隠してモロッコを推薦すると、この企画が採用され、大々的に特集を組んでモロッコ旅行を売り出す事になりました。タケルは、企画の責任者として、モロッコ旅行の取材を任されたのでした。